「<あの絵>のまえで」は一編ごとに日本の美術館に収められている一枚の絵が登場する短編集です。
短編なので気軽に読めます。
キュレーターである原田マハさんが、あまたある絵の中からなぜこの絵を選んだのか、読みながら、読んだ後、想像してみるのも楽しい一冊です。
・原田マハさんの小説をまず読んでみようと思われる方
・気軽に読める短編を探している方
・前向きな話が詠みたい方
・美術館になかなか行けない方
原田マハ
1962年生まれ。関西学院大学文学部日本文学科及び早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。
フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活動。
2005年「カフーをまちわびて」第1回日本ラブストーリー大賞を受賞して作家デビュー。
アートを題材にした作品を多数下記、絶大な支持をうけている。
<あの絵>のまえで の感想
6編どの話にも主人公と大切な人が登場します。そして一枚の絵も。
クリスマスプレゼントに友人からもらった手帳に印刷されていた一枚。
デートで訪ねた美術館で見た一枚。
偶然会った少女を追いかけてたどり着いた美術館で一枚。
どの話も過去の自分を振り返りその一枚を絵を通して新たな一歩を踏み出していく話です。
読後は前向きな気持ちになります。
2編目の「窓辺の小鳥たち」に印象的な一説があります。
「(略)おれらは、かごの中にいるわけじゃない。自由に飛んでいけるんだ、って」
本のカバー(このブログのトップ)にあるピカソの「鳥籠」がテーマの一編です。
ただ、個人的に5編目の「聖夜」は苦手な話でした。「聖夜」で終わらず、次の「さざなみ」の編があったので気持ちが救われました。
この「さざなみ」は読んでいて一番絵が浮かびました。ストレートに絵画「睡蓮」と向き合う話です。主人公に自分が重なり、私も地中美術館の中で「睡蓮」を見ている気持ちになりました。
<あの絵>のまえで に登場する絵とどこで見れるのか
6編のタイトルとそこにでてくる絵、画家、美術館を紹介していきます。
ハッピー・バースデー
絵画名:ドービニーの庭
画家:フィンセント・ファン・ゴッホ
美術館:ひろしま美術館
「ドービニーの庭」というタイトルの作品は3枚あって、1枚はスイスのバーゼル市立美術館にあり、構図が違うもう1枚はオランダ アムステルダムのゴッホ美術館にあります。
窓辺の小鳥たち
絵画名:鳥籠
画家:パブロ・ピカソ
美術館:大原美術館(岡山県倉敷市)
大原美術館には「鳥籠」以外にもピカソの作品が数点収められています。
檸檬
絵画名:砂糖壺、梨とテーブルクロス
画家:ポール・セザンヌ
美術館:ポーラ美術館(神奈川県箱根町)
ポーラ美術館にはセザンヌの作品は9点所蔵されています。モネの「睡蓮」はじめ印象派の作品が充実しています。
豊饒
絵画名:オイゲニア・プリマフェージの肖像
画家:グストフ・クリムト
美術館:豊田市美術館(愛知県)
Wikipediaによるとこの絵は「トヨタ自動車の寄付金により約17.7億円で購入された」そうです。豊田市美術館にはクリムトのデッサンも所蔵されています。
聖夜
絵画名:白馬の森
画家:東山魁夷
美術館:長野県立美術館(東山魁夷館)
東山魁夷館には970点もの東山魁夷の作品を所蔵しています。2021年は7月29日~10月5日に「白馬の森」が展示されます。
さざなみ
絵画名:睡蓮 シリーズ5点
画家:クロード・モネ
美術館:地中美術館(香川県直島)
地中美術館では「睡蓮」5点を自然光の元でこの絵のために選定された環境で鑑賞できます。
オンラインでの事前予約制です。
最後に
この本の表紙に書かれた英文のタイトルがまたいいのです。
A Piece of Your Life.
今は中々旅行に出かけられませんが、出かけられる時がきたら、登場した美術館を訪ね、<あの絵>の前に立ち、主人公のことを思い出したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
2020年3月20日 第1刷発行
発行所 株式会社幻冬舎