ある日突然したこともない事を「あなたはそれをした」と言われて逮捕される。
身に覚えがないのに、「あなたはそれをしたんですよ」と知らないストーリーを何時間も聞かされる。
そんな体験をしたら「そこまで言われたら、私がしたかもしれない」と思ってしまうかもしれません。
これは2009年に起こった「障害者郵便制度悪用事件」で当時の厚生労働省の局長だった村木厚子さんが不正逮捕された事件をドキュメンタリーで伝える一冊です。
村木さんは毅然とした態度で臨み、それを敏腕弁護士チームがサポートし、有罪率99.9%と言われる日本の裁判から無罪を証明した記録が書かれています。
時間を追って伝えられる内容はとても緊迫感があり、法律や法廷に詳しくない人でも、一気に読めます。
・法廷モノの本が好きな方
・郵便不正事件(障害者郵便制度悪用事件)について知りたい方
・法廷の様子を本で知りたい方
・冤罪ってこうつくられるんだと知りたい方
・ノンフィクションを読みたい方
魚住 昭
1951年 熊本県生まれ。75年一橋大学卒業後、共同通信社に入社。96年退社。
2004年「野中広務 差別と権力」(講談社文庫)で講談社ノンフィクション賞受賞。
「冤罪法廷 特捜検察の落日」のあらすじ
2009年6月4日、虚偽有印公文書作成・同行使容疑で厚生労働省の局長村木厚子さんが逮捕されました。
容疑を否認し続けるも起訴され、担当検事から
『私の仕事はあなたの供述をかえさせることです』
P246
と言われ、何度も架空の話が書かれた調書に署名をするように求められる。
特捜ではすでにこの事件には(架空の)ストーリーが出来上がっており、その内容通りの調書に署名を取れればよかったのです。
そして村木さん以外の検事調書には、村木さんがこの事件に関わっているという署名を取られています。
この裁判についたのは無罪請負人の通称を持つ、弘中惇一郎弁護士。
巧みなメディア戦略と、入念な検証で一つづつ、検察の”でっち上げ”をあばいていきます。
「冤罪法廷 特捜検察の落日」の感想
<検察について>
全ての検事が同じだとは思っていませんが、ここに登場していた取調官は脅迫的、威圧的です。
人の話を聞かず、「執行猶予になるんだからいいじゃないか」と調書にサインさせようとする。
執行猶予がつくってことは有罪ですから、罪を犯していない人への言葉と思えません。
こんなことがまかり通る世界なんだと、絶望的な気持ちになりました。
ドラマの「HERO」の世界とは対極です。
「ウソでもいいから自白すれば、この責め苦から解放される」という気持ちになってしまう。
P58
そんな心理になってしまうのも理解できる気もします。そして、そんな事があってはいけないのに、苦しみから逃れるためにうその供述をしてしまうのです。
<裁判について>
ここまで検察側があげてきた証拠を潰しても、まだ無罪にはできないのか!、と思う部分が沢山ありました。
罪を犯していないのに、それを証明しないといけない。創作された世界を崩していかないといけない。
本当におかしなことです。
<弁護士>
この弁護士さんでなければ無罪にならなかったのではないか、と思うと空恐ろしいです。
裁判では「自白調書」が千鈞の重みを持つ。どんなに優秀な弁護士でも「自白調書」を覆して、無罪を勝ち取るのは至難の業だ。
P59
とあるように、折れそうになったであろう気持ちまでサポートして、取り調べ期間を乗り切らせ、裁判で偽の証拠を潰していく。
そういう弁護士さんもいるのだと安堵する気持ちになりました。
最後に
この本の著者魚住昭さんはかつて共同通信の社会部にいて、その経験も書きながら、話を進めているので、法律や検察などの知識がなくてもその関係が理解できました。
これだけの取り調べを、裁判を乗り越えた村木さんはなんと強い人だろうと思います。
2010年9月10日無罪判決がでて、9月21日に大阪地検が上告権を放棄したため無罪が確定し、厚生労働省に復職。
その後、厚生労働事務次官まで務められ、2015年退官。
現在は津田塾大学総合政策学科の客員教授を務められています。
ドラマのようなノンフィクション。
読んでおいて損はないと思います。