フランス北部のノルマンディー地方にサン・ヴィゴール・ド・ミューという小さな村がある。
16世紀に建てたれた礼拝堂は長く放置され、屋根は穴だらけで窓もなく、荒廃が進んでいた。
村人は皆この荒れた礼拝堂をどうしたものかと思っていた。村人の半分は壊してしまえと思い、もう半分は保存したいと思っていたが、なんせお金がなくて何もできなかった。
パリで働いていた村人の一人が日本の大使*と知り合いになりこの礼拝堂の話を聞いた。たまたま日本大使館職員が芸術家の田窪恭治氏と知り合いだった。(*大使と聞いたと思うがちょっと自信がない)
その頃田窪恭治氏は、小さい礼拝堂で作品を描きたいと礼拝堂をいくつも巡っていたが希望に合うものがみつけられずにいた。
サン・ヴィゴール・ド・ミューの礼拝堂の話を聞いた彼はこの礼拝堂を見て一目惚れした。
1989年夫人と3人の子供を連れて、この地へ移り住んだ。
そして足掛け10年の年月をかけて、この礼拝堂を完成させたのだ。
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田窪恭治氏は様々なアイデアをこの礼拝堂につぎ込んだ。
りんごが描かれた壁は絵の具を密着させるために鉛を入れた。なん十色もの層をつくり、それを削り掘ることによって色を出した。
光の当たらない壁は薄く、光の当たる壁は厚く塗った。
美しいのは壁面だけではない。
屋根には色とりどりのガラスの瓦が敷かれ、瓦を通して何色もの光が礼拝堂の中に入ってくる。
万華鏡のような光が差してくる。
圧倒される美しさだ。
ちなみに、修復資金の99%は日本からの寄付によってまかなわれた。
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「りんご」はここノルマンディー地方の名産である。
りんごを使ったパンやデザートだけでなく、蒸留酒のカルバドスや発泡酒シードルもりんごを使っている。
その名産のりんごの木がが壁いっぱいに描かれたこのサン・ヴィゴール・ド・ミュー礼拝堂は今「りんごの礼拝堂」と呼ばれている。
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興味のある方は本も出版されている。
個人では行きにくい場所にある。
変わっていなければ管理人さんに開けてもらわないと内部の見学はできないはずだ。
それでも太陽が輝く日に、この礼拝堂を訪ねて欲しい。